"非メジャー"のジレンマ~「東京12チャンネル時代の国際プロレス」おすすめポイント10コ~ | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ第6回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。

今回紹介するプロレス本はこちらです!






内容紹介

1974年2月にエースのストロング小林を新日本プロレスに引き抜かれて危機に陥った国際プロレスの吉原功社長は、全日本プロレスと提携関係を強めていったが、ジャイアント馬場&日本テレビの策略(?)で団体のイメージが急落。その後、剛竜馬離脱騒動で怨敵・新日本と急接近し、提携先を鞍替えしたものの…1981年3月、国際プロレスは東京12チャンネル(現・テレビ東京)にレギュラー中継を打ち切られ、同年8月に団体崩壊という結末を迎える。 
“第3団体"を潰したのは、誰なのか――。東京12チャンネル『国際プロレスアワー』のチーフプロデューサーだった田中元和氏の極秘資料を紐解きながら、昭和プロレスの第一人者・流智美がリング内外で起きた数々の“事件"の真相、他団体との対抗戦やマックメークにおける失策、テレビ中継の裏事情などを徹底検証。放映存続のために東京12チャンネル側が思い描いていた新団体設立構想、幻に終わった5日間連続ゴールデンタイム生中継特番「ワールド・チャンピオン・カーニバル」等々、驚愕の新事実も明らかに!


かつて国際プロレスでスタッフとしてアルバイト経験を持つプロレスライターの流智美さんの最新作は流さんが長年追い続けてきた国際プロレスがテーマ。そこでこの本のおすすめポイント10コをなるべくネタバレなしでご紹介します。


1.伝説のプロレス団体・国際プロレスの知られざる歴史と秘話が明らかに!


国際プロレスの歴史を綴った本といえば、2018年に発売された「実録・国際プロレス」があります。レスラーや関係者の証言が赤裸々に綴られたこの本には国際プロレスの光と影が詰まっています。国際プロレス本はこの「実録・国際プロレス

」で完結したかに見えましたが、流さんが数年前に元東京12チャンネル(現・テレビ東京)の国際プロレスアワーというプロレス中継のチーフディレクターだった田中元和氏からA3のレポート用紙39枚「田中メモ」を手渡されたことにより、ここから流さんの闘志に火がつき、国際プロレス卒業論文的作品として誕生したのがこの本です。伝説のプロレス団体・国際プロレスの歴史と秘話が凝縮されています。


2.極秘資料「田中メモ」のインパクト!


この本の最大の目玉である「田中メモ」。この極秘資料のインパクトはすさまじい!この「田中メモ」は東京12チャンネルで放映された国際プロレスアワーのチーフディレクター時代に田中氏が会社の上司や番組編成の幹部に報告していたレポート。番組製作の経費、団体の内情、番組の今後の方向性や企画と多岐に渡ります。


本の帯にも書かれている「田中メモ」の内容をご紹介します。


「国際プロレスのエースであるラッシャー木村について報告します。木村は自分が吉原功社長のモルモット的な立場であるという認識を非常に強く持っています」

「今回の特別強化費は800万円でしたが、このうちいくらがバーン・ガニアに支払われたかについて不明で、吉原社長からも当方に開示されていません

「12チャンネルが個々のレスラーと専属契約を結ぶ段階が来たとしても、グレート草津は除外するしかないと考えます」


あらゆる先進的企画や前例を作り、日本プロレス界のアイデアマンと呼ばれた国際プロレス・吉原功社長ですが、田中氏もかなりのアイデアマンだということはこの本で感じることができます。


3.国際プロレス・吉原功社長の功と罪


この本で感じたのが吉原社長のよくも悪くも、前時代的経営者ぶり。自転車操業やどんぶり勘定と言われても仕方がないかもしれません。後期になると選手のギャラも遅れたりしていたというのも納得。元々はこういうプロレス団体にしたいんだという理想もあったとは思いますが、経営に関してはその場しのぎ経営だったのでしょうか。国際プロレスは潰れるべくして潰れてしまったのかもしれません。


私はアイデアマン・吉原代表の功の部分を国際プロレスのDVDや書籍をよく見ていたのですが、この本はどちらかというと罪の部分を感じます。


ただ吉原社長だからこそ、国際プロレスは伝説の団体になったことも事実です。


4.著者・流智美さんの歴史検証力


この本の著者はプロレスライターの流智美さん。流さんの歴史検証力の凄さをこの本で体感できます。東京12チャンネルで国際プロレスが放映開始された1974年から団体が崩壊する1981年まで丹念に綴られていますが、まず日本マット界がその年がどんな年でどんな出来事が起こったのかというのをまとめてから、「田中メモ」を絡めたその年の国際プロレスを振り返り、歴史検証されています。


プロレスマスコミ界において歴史検証というジャンルは流さんと斎藤文彦さんは凄いなという認識を改めて抱きました。


5.国際プロレス・数々の秘蔵写真や資料


この本には国際プロレスのポスターや試合写真など数々の秘蔵写真と資料が登場します。これがまた味があります。


6.現場責任者・グレート草津の不人気


そしてこれはこの本だけではなく感じていたことですが、国際プロレスの現場責任者であるグレート草津さんの現場で不人気だったこと。それは東京12チャンネルのスタッフにも同様だった模様です。これはあまり驚かなかったです。


7.国際プロレスを見て感じる新日本プロレスと全日本プロレスの凄さ


これは試合内容だけではなく、交渉とか戦略も含めてやっぱり国際プロレスより全日本プロレスや新日本プロレスの方が一枚も二枚も上手。国際プロレスを通じて、なぜ全日本プロレスや新日本プロレスがメジャー団体と呼ばれたのかが分かります。日本マット界概要という項目を入れてまとめているからこそ、その事実が際立つのです。


8.プロレスは結果より内容が大事


吉原社長は度々口癖のように東京12チャンネルとの交渉で「プロレスは結果より内容が大事」と言っていたようですが、東京12チャンネルサイドは「内容はもちろん、結果を優先する」というスタンスで相反していました。それでも吉原社長と付き合い放映を続けたのは、田中氏も含めて国際プロレスという団体に思い入れもあるからではないでしょうか。田中氏は他のスポーツも担当していても、プロレス担当から外れませんでした。田中氏が在籍していた東京12チャンネルも国際プロレス同様に、業界の後塵を拝する立場だったと思います。そこにシンパシーも感じていたのではと個人的には思います。


9.幻となった「ワールド・チャンピオン・カーニバル」


田中氏が上層部に提出した企画の中でも壮大な企画だったのが「ワールド・チャンピオン・カーニバル」。NWA・AWA・WWF(現・WWE)の王者クラスの大物を集結させ、世界一を決めるというもの。ギャラやスケジュールも含めて無茶ともいえる企画かもしれないが、そこは田中氏。きちんと現実に開催されるように創意工夫して乗り越えようと計画。詳しくはこの本を読んでください。



10.非メジャーのジレンマ


これは途中にも書きましたが、国際プロレスもテレビ局の東京12チャンネルもプロレス界と放送界と違えど、どこか似たような立場だったように思えます。国際プロレスは全日本プロレスや新日本プロレスの後塵を拝し、東京12チャンネルはNHKを筆頭に、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビよりワンランク下の立場に甘んじてきました。でもそれで終わらないのが国際プロレスであり、東京12チャンネル。さまざまなアイデアや奇抜な企画で奮闘していたのです。


国際プロレスは崩壊しましたが、東京12チャンネルはテレビ東京に名を変えて、近年では「テレビ東京らしい」という唯一無二な番組が多く生み出して、奮闘して上位のテレビ局にも肉薄するようになりました。


国際プロレスも東京12チャンネルはメジャーではないが、インディーでもない"非メジャー"。そのジレンマが哀愁と郷愁を生むスパイスとなっているのです。


魂のふるさと・国際プロレス。その魂のふるさとをテレビマン視点で付き合い続けたディレクターがいました。そこには悲しくも人間味溢れる男達の人間ドラマがあるのです。


この本、めちゃくちゃ面白いです。

是非、ひとりでも多くの皆さんに読んでほしいです。